C級コーチ・前期専門科目講習会 | ||
第1日目 7/20(土) |
■開講式 ・挨拶浅岡・NBA理事(総務部兼事務局副部長) ・挨拶鈴木・NBA理事(普及指導開発部部長) 待ちに待った講習会がいよいよスタート。今年度の受講者は総勢21名、ピーンと張り詰めた空気の中、開講の挨拶が行われました。 ・挨拶およびスケジュール説明阿部・筑波大学教授 来年度から、日体協の資金源がTOTOへ移行していくことに伴い、十分な活動予算が確保できるかどうかはNBAの活動如何にかかってくるとのこと。 ・配布資料についての説明渡辺・NBA普及指導開発部部員 今回の資料(貴重な歴史資料など)は紙にすると数百枚にも及ぶため、一部の資料を除きCD-Rで配布されました。(従って、受講者は原則としてパソコン持参で受講) |
講義室の様子 |
■講義「NBAの活動と強化対策及び公認コーチ制度と課題」 鈴木・NBA理事(普及指導開発部部長) NBA(日本バドミントン協会)の組織、事業方針などについて説明。普及指導開発部としては、現在、下記3項目に取り組んでいる。 1.次回(2004年)のトマス杯&ユーバー杯の日本への誘致交渉。 2.『バドミントン教本・基礎編』に続く『応用編』の出版準備。 3.小・中・高・大・社会人の指導者・競技者が同じ目的をもって選手強化に取り組める(一貫指導)環境の整備。 阿部・筑波大学教授 A/B/C級コーチの使命についての説明。 A級コーチ=「How to management」国の代表監督として、選手に対して「君が死んで来い」と言えるレベル。 B級コーチ=「How to coach」世界のトレンドを把握した上で、「分析→課題抽出→対策シナリオ策定」ができるレベル。 C級コーチ=「What is Badminton」バドミントンとは何かを「共通の言葉」で伝えられるレベル。 マレーシアやデンマークなどバドミントン強国のコーチが日本へコーチングの勉強に来るぐらいにぐらいにグレードの高い研修にしていきたい。 今回の受講者の一人である鈴木草麻生さん(兵庫県協会、元トナミ運輸)のお母様である画家・三橋節子さんの遺作「雷の落ちない村」が紹介されました。阿部先生曰く、「この物語には、現在の日本バドミントン界に不足しているもの=『倫理観』の大切さが描かれている。」 |
||
■講義「バドミントンにおける世界の歴史・日本の歴史」 渡辺・NBA普及指導開発部部員 渡辺先生が自ら編集されたVTRでバドミントンという名称の由来の地「バドミントン・ハウス」を探訪しました。 阿部・筑波大学教授 バドミントンの原型と言われる「バトルドアー&シャトルコック」、英国バドミントン協会の設立など、バドミントンが現在に至るまでの世界および日本の歴史を振り返りました。バトルドアー&シャトルコックで2,000回以上打ち続けたという記録が残っているのですが、そのときのシャトルの重さは何と50g(現在のシャトルの10倍)もあったそうです。 何しろ資料(CD-Rで配布)が膨大であるため、講義時間内で全てを網羅することはできません。そこで、持ち帰った資料を読んだうえで、「世界のバドミントンの歴史」についてのレポート(A4×3枚程度)を提出することが課題として与えられました。 |
講義室の壁には、バドミントンに因 んだ絵画(阿部先生所有)が掛けら れています。 |
|
■昼食 10数人のグループで近くのスパゲティ屋さんへ。麺のゆで時間が異常に長くかかり、実質の食事時間は約5分。急いで研修センターへ戻りました。 |
||
■講義:バドミントン理論と競技解析「バドミントンの運動学的基盤と解析」 阿部・筑波大学教授 「適切なドンピシャ運動に向けての自由度の保証」、バドミントンにおける「攻撃原則」と「経済原則」など、コーチングの基礎に関する講義に続いて、オーバーヘッドストロークのメカニズムについて勉強しました。 肩〜上腕〜前腕にかけての身体構造を理解するために、2つの模型を使用しました。 まず1つ目は、肩周りの筋肉構造を理解するために紙とゴムチューブ(筑波大生が事前にカットしてくれたもの)を使って受講者各自が製作しました。上腕を強く内旋させるためには肩周りのインナーマッスル(棘上筋・棘下筋・肩甲下筋など)が非常に重要な役割を果たしていることがわかりました。 2つ目の模型は、上腕〜前腕〜ラケットに至る部分のもので、この模型は、事前に先生方や筑波大生によって製作されたものです。写真下の赤い部分が前腕の橈骨、青い部分が尺骨で、これらがゴム仕掛けで回内するようになっています。ヒジも屈曲するようになっていて、オーバーヘッドストローク時の上腕〜前腕〜ラケットの動きが目で見て理解できます。これを見れば、いわゆるスナップ運動(手首の屈曲)は、ほとんど不要であることがわかります。 このほかにも、「力のモーメント」、「角運動量保存の法則」、「姿勢反射」、そして「体の成長・発達とコーチング」などについて講義がありました。 |
肩周りの筋肉構造の模型 前腕の回内・回外運動の模型 |
|
■夕食 講師の先生方と受講者全員でメキシコ料理のレストランへ。ここで初めて受講者の自己紹介が行われました。ジュニアや実業団などコーチングの対象は様々ですが、バドミントンにかける情熱は全員が日本のトップレベルだと感じました。 |
||
■指導実習:コーチ会議「コーチの役割と活動をめぐって:コーチの課題と責任」 受講者一人一人が、現在の自分の置かれている状況での「コーチの課題と責任」についてコメントし、意見交換を行いました。 昨年のジュニアの海外遠征で、航空便の都合で決勝を棄権して帰国した事件や、インターハイ・全中などでラリーに勝つたびに大声を出してガッツポーズで相手を威嚇することの是非について議論が白熱する場面もありました。 |
第2日目 7/21(日) |
■JOC(日本オリンピック委員会)の競技者育成プログラムについて 鈴木・NBA理事(普及指導開発部部長) JOCの「競技者育成プログラム」において、一貫指導システムの構築をねらいとした「競技者育成プログラム策定のためのモデル事業」が平成13年度からスタートした。現在のモデル事業実施競技団体は12競技16種目で、バドミントンは残念ながら未参加。NBAとしては、平成14年の国体開催時に各都道府県協会のコンセンサスを諮りプログラム策定に着手すべく準備を進めている。 |
||||||
■講義:バドミントン理論と競技解析「バドミントンにおける競技構造と技術課題」 阿部・筑波大学教授 ジェイク・ダウニー(英国バドミントン協会コーチング・ディレクター)著「中・上級のためのバドミントン上達法-プレーヤーとコーチのための実践紹介マニュアル」をテキストとして、要点を解説。 【印象に残った点】 1.competition goal(=本質的な目標)とperformance goal(=非本質的な目標)の区別 2.日本国内のチームの中で、最もタイムスケジュールが立てにくいのはナショナルチームである。 3.ストロークの評価段階 @動作の滑らかさ(fluency)→A結果の正確さ(accuracy)→B@とAの調和(consistency) |
|||||||
■講義:バドミントン理論と競技解析「バドミントンの生理学的な理解とトレーニング課題」 須田・東京工業大学教授 1.バドミントンのエネルギー供給機構について ・ATP・CP系、乳酸系、有酸素系のエネルギー供給メカニズムについて解説。 ・バドミントンのような間欠運動では、ミオグロビンの働きを活性化させるトレーニングが有効。 ・「グリコーゲンローディング」により、有酸素系運動のエネルギー源であるグリコーゲンを効果的に体内に蓄えること ができる。 ・試合当日は環境条件により飲料を変えることも重要。(水分重視orエネルギー重視) 2.筋繊維タイプについて 3.神経系の機能の理解(反射運動について) 4.スキャモンの発達曲線からトレーニングを考える 【Q&A】 Q1.トーナメントが数日続く場合のグリコーゲンローディングの注意点は? A1.トーナメント前の準備よりもトーナメント中の補給が重要。 Q2.サプリメントとけがの因果関係は? A2.クレアチンは筋能力を強く発揮させる効果があり、障害発生に影響があると考えられる。 Q3.発汗量とポテンシャル(潜在能力)の関係は?(よく汗をかく選手はトップ選手になれない?) Q4.ある程度は体が環境に対応していくので、それだけで判断することはできない。 |
|||||||
■昼食 昨日の反省から、この日は「一番早くできるもの」とオーダーしたので、多少時間に余裕を持って食べることができました。 |
|||||||
■実技実習:バドミントン理論と競技解析「技術課題の発生とトレーニング法」 吹田・筑波大学技官 (2002トマス杯・ユーバー杯 アジア/オセアニア予選随行トレーナー) 全員バドミントン・ウェアに着替え、筑波大学体育館へ移動。筑波大学には、体育館 が何箇所もあって、我々が向かった体育館はバドミントン部がほぼ専用で使用して いるようです。 この日の実習では、吹田先生からバドミントン特有のトレーニング法を教えていただ きました。その中から、いくつかのトレーニングをご紹介します。 1.眼のトレーニング ・動体視力のトレーニング シャトルのコルクに数字を書き、投げられたシャトルをキャッチする前にコルク に書かれた数字を読み取りコールする。 シャトルを顔の正面へ向けて投げることで、遠方から近づいてくる物体を識別 する能力をトレーニングでき、また、シャトルを顔の側方へ投げることで水平 方向に移動する物体を識別する能力をトレーニングできる。 ・眼と手の供応運動のトレーニング シャトルのコルクのテープ部分を3色(赤・黒・青)に色分けしたものを準備し、 ネット越し投げられたシャトルの色によって返球場所を打ち分ける。(赤はヘア ピン、黒はストレートロブ、青はクロスロブなど) ・静止視力のトレーニング 「1」から「20」までの数字が書かれたカードをランダムに黒板に貼り付け、「1」 から順にタッチしていく。ホームポジションへ一旦戻ることで、動きを交えたトレ ーニングも可能。 2.肩関節のトレーニング 今回は、特に肩周りのインナーマッスル(=上腕骨を肩甲骨に固定するスタビラ イザー役)をラバーバンド(商品名「セラバンド」など)を用いて強化するトレーニン グ方法が紹介されました。 【トレーニングにおける注意点】 ・弱い負荷で行うこと。(セラバンドの場合は黄色を使用。全力の20%以下が目安) ・ストレッチングとセットで行うこと。 (参考)ラバーバンドエクササイズが紹介されているHP 3.股関節のトレーニング トレーニング方法やトレーニング上の注意点が説明されました。 バドミントン競技における股関節の重要性は、以下のとおり。 ・移動技術として(加速するために基底面をはずす) ・クローズな(両足を地面に着けた)状態で、下肢から上体・体幹へのパワー伝 達の架け橋→より安定した状態で骨盤を回旋させる。 ・オーバーヘッドストロークに移行する前段階でのジャンプ動作 →股関節により体重をかけられることで、足関節底屈、膝関節伸展、股関節伸 展の力を利用できる。 ・男子と女子の形態の違い(そこから生じる運動の差異) |
|
||||||
■夕食 この日は、阿部先生の呼びかけでおしゃれなペンション風のレストランで懇親会が開催されました。 |
|||||||
■指導実習:コーチ会議「世界のバドミントンのトレンド」 渡辺・NBA普及指導開発部部員 研修センターに戻り、講義室に設置された大スクリーンで2002ヨネックスオープンジャパンのビデオが上映されました。 今大会では、ゲーム分析の資料とするためにNBAが全試合をビデオ撮影したそうです。残念ながら、講義室消灯のため22時で終了。 |
第3日目 7/22(月) |
■講義「トレーニングの課題と構成」 加藤・慶応大学講師 年間トレーニング計画を作成するための基本理論(マトベーエフのトレーニング理論等)を講義。 その後、各受講者が現在指導している選手を想定しての年間トレーニング計画の作成実習。実際に計画書を作ってみると、(特にトップレベルの選手は)試合が多すぎて、コンディショニングの波のつくり方が非常に難しいと感じました。 西島・筑波大学大学院生 ジェイク・ダウニー/デヴィド・ブロディー共著「バドミントンの実践トレーニング〜プレーヤーとコーチのために〜」をテキストとして、要点を解説。 【乳酸の発生量による体力の評価】 @同じ運動をした場合には、体内の乳酸発生量が少ない方がよい。 A最大能力を発揮して運動を行う場合には、より多くの乳酸を発生させられる方がよい。 B乳酸除去力が大きい方がよい。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■昼食 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■実技実習「バドミントンにおけるトレーナー活動とその課題」 吹田・筑波大学技官/西島・筑波大学大学院生 午後からは筑波大学体育館に移動して、「シングルス・ゲームでの心拍数および血中乳酸値の測定」を行い、ゲーム展開との関連性を分析しました。 1.対戦選手 第1コート:渡辺哲義(NTT西日本大阪)vs池田信太郎(筑波大学) 第2コート:谷内貴昭(三洋電機)vs早坂幸平(筑波大学) 2.測定内容および方法 試合開始前と試合中に数回(任意のタイミングでゲームを中断して測定)、心拍数と血中乳酸値を測定。血中乳酸値は、手の指先から微量の血液を採取して行います。 (参考)簡易血中乳酸測定器メーカーのHP また、各イニングのストローク数・ラリー時間(WP)・インターバル時間(RP)もパソコンに入力されます。 3.測定結果
渡辺選手:昨日と今日の朝、池田選手と2ゲームして相手選手の情報をインプットしていた。前半はスピードを落として心拍数を上げないように試合展開し、後半に勝負をかけるというゲームプラン通りに組み立てができていたが、最後は逃げ切られた。 池田選手:ラリーが短かったため疲労感は小さい。ポイントが欲しいときにミスが多かった。 谷内選手:前半にロブを天井に当ててしまったため、ロブの高さ低くせざるをえなかった。後半は相手のタマが読めてきたので、ネット際の甘いタマを狙いにいったが、体の入りが遅れて勝負どころでミスをしてしまった。測定の影響はない。 早坂選手:前半はシャトルの下に早く入ることができ、攻撃的にいけたが、終盤に体が思うように動かなくなり攻撃できなくなった。試合中、自分の測定値が気になった。 【考察】 この後、受講者一人ひとりが、測定結果とゲーム展開(選手のパフォーマンス)の関連性についてコメントを述べ、ディスカッションを行いました。主なコメントは以下のとおり。 ・谷内選手は、心拍数・乳酸値ともに高い状態でもスピードのある動きを維持できる非常に優れた能力を持っている。 ・ゲーム開始直後に早坂選手の脈拍・乳酸値が急上昇しているが、ウォーミングアップでそれをある程度抑制することが可能ではないか。 ・体格的にみると各選手とも筋肉量(=エネルギー源としてのグリコーゲン貯蔵量)が絶対的に少ない。(阿部先生) ・早坂選手と池田選手は乳酸値からみると体力的に余裕があるのだからそれをボディスキル(ストローク時のボディ・アクション=ディセプション効果により相手を消耗させる)に使うことでよりパフォーマンスを高めることができるはず。(阿部先生) |
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■夕食 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■指導実習:コーチング・コングレス「トマス杯・ユーバー杯を検討する」 今泉・2002トマス杯監督(トナミ運輸) 宮崎・2002ユーバー杯監督(三洋電機) |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■宿舎の移動 この日1泊だけは、つくば研修センターから阿部先生おすすめの「ウッディホテル・スワ」に移動しました。 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■前期テストの問題発表 明日の午前に行われるテストの問題が配布されました。試験時間は、4問で2時間。それぞれA4用紙1枚(500〜600字程度)の答案にまとめなければなりません。なお、配布された資料等は持ち込みOKです。 出題内容は、具体的にはご紹介できませんが、 1.人体構造とバドミントンストロークに関すること 2.運動生理学に関すること 3.トレーニング計画に関すること 4.ナショナルチームの強化に関すること の4問です。 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■テストに向けての自主勉強会 テスト問題の発表を受けて、自信のないメンバー(私をはじめ、ほとんどが関西人)が次々とロビーに集まって来て、自主勉強会が始まりました。最初は、テストの解答について「あーでもない、こーでもない」という話の内容だったのですが、いつの間にか話が脱線して、コーチングについて熱く語り合っていました。深夜2時前頃にホテルの従業員から「他のお客様からクレームの電話が入っておりますので、お部屋へお戻り下さい。」とお叱りを受けたため解散。その後、自室で答案作成に励み、気がつくと時計は4時を回っていました。 |
第4日目 7/23(火) |
■講義「バドミントンにおける倫理観」 阿部・筑波大学教授 本当の意味での「闘う」ということを文章にした作家として、柳美里の『8月の果て』が紹介されました。 阿部先生は、研修初日にも触れた「倫理観」というものについて再度講義されたのですが、バドミントン(スポーツ)の指導者として下記の点を認識しておかなければならないと思います。 ・選手は皆、プレーヤーとしての自分と本当の自分とのズレを持っている。 ・勉強する者の基本姿勢=open mind |
||
■前期テスト いよいよテストの時間が来てしまいました。「時間内で書ききれない場合は、閉講式のあと残って仕上げてもOK」ということで、リラックスしてスタート。 前日に発表された4問の内、回答の下書きができていた3問を解答用紙に写し終わると、残り時間は約40分。4問目は、やはり下書きなしではなかなか捗らず、数行書いたところでタイムアップとなりました。 「残りは、持ち帰って仕上げて1週間以内に郵送で提出してもよい」ということに変更され、私を含めほとんどの受講者は持ち帰ることにしたようです。 |
|||
■閉講式 遠井・NBA専務理事 国際舞台で日本選手が活躍する、メダルを取るという目標達成に向け、指導者の方々への期待や責任は非常に大きい。NBAとしては、ジュニア期からの一貫指導体制の構築が最重要と考えている。 |